従業員の能力レベルに応じて課題を提示し、個別の学習プログラムを提供するアダプティブラーニングは、企業内教育においても有効な手段となりつつあります。
しかし、多数の企業がアダプティブラーニングのソリューションを提供しており、サービスの内容は提供元によって大きく異なります。
そのため、
- 業務内容
- 組織の規模
など、各企業の状況に適したソリューションを選択することが重要です。
本稿では、
- アダプティブラーニングの特徴
- 長所と短所
- 推奨されるサービス
- 導入事例
について詳しく説明します。
気になる内容をタップ
アダプティブラーニングとは?
個人の習熟度や興味関心に合わせて学習コンテンツを提供する仕組みがアダプティブラーニングです。
従来は人的リソースの制約から個別対応が困難でしたが、教育ビッグデータを活用することで一人ひとりにフィットした学習支援が可能になりました。
このシステムは学校教育のみならず、企業の社員研修にも応用が広がっています。
ITツールを活用した個別最適化された学習環境の提供が、アダプティブラーニングの核心的な機能となっています。
e-ラーニングとアダプティブラーニングの違い
コンピューターを活用した教育手法であるe-ラーニングと、個人に合わせてカスタマイズされた学習システムであるアダプティブラーニングは、しばしば混同されがちです。アダプティブラーニングは、e-ラーニングの一種に過ぎません。e-ラーニングには、
- 学習管理システム
など様々な形態が存在し、その中の一つがアダプティブラーニングなのです。
e-ラーニングの長所は、
- 個人のペースに合わせた学習が可能なこと
- フィードバックが即座に得られること
- 苦手分野を繰り返し学習できること
- 過去のデータから個別のカリキュラムを提案できること
などが挙げられます。また、企業側からすれば、従業員一人ひとりの進捗状況を把握しやすいというメリットもあります。
従来の習熟度別学習では、レベル分けはされていたものの、人手不足から遅れている生徒や進んでいる生徒に合わせざるを得ず、教師側も個別の苦手分野を把握しきれずに次のステップへ進まなければならない状況がありました。e-ラーニングの導入により、こうした課題を解決することができるようになりました。
アダプティブラーニングの広がり
アダプティブラーニングの普及には、e-ラーニングの歴史が深く関わっています。
e-ラーニングは1950年代から存在しましたが、当初は決められた順序での学習しかできず、優秀な学習者には物足りないものでした。
しかし、Windowsの普及やメモリ容量の拡大により、1980年代にはデータベースを活用した個別最適化が可能になりました。
1990年代のインターネット普及で講師と学習者のコミュニケーションが実現し、アダプティブラーニングの基盤ができあがりました。
2000年代に入りインターネットが家庭に浸透すると、アダプティブラーニングが一般化しました。
現代の日本では、Society 5.0実現に向けた「GIGAスクール構想」が推進されています。その目的の一つが、公正に個別最適化された学習環境の提供です。
- 教師不足により一人ひとりへのフォローが難しくなっているため、ITを活用して効率的な個別最適化を図ろうとしています。
企業においても同様の課題があり、社員教育へのアダプティブラーニング導入が進んでいます。
文部科学省も企業への情報提供に力を入れています。
アダプティブラーニングのメリット
アダプティブラーニングには、以下のメリットがあります。
- 個人の習熟度に合わせた学習が可能
- 一人ひとりの強みと弱みを客観的に把握できる
従業員は以下のことができます。
- 自身の長所を伸ばすことができる
- 短所を克服することができる
- 周囲から遅れを取ることがない
- 個別のペースで学習を進められる
- 小テストなどで知識の定着度を確認しながら学習できる
- 得意不得意に応じた教材を提供される
これにより、自身の強みと弱みを正しく認識し、キャリア形成に活かすことができます。
従来の集合研修では、以下の課題がありました。
- 分からないことを質問しづらい
- 理解が追いつかない従業員が出てしまう恐れがある
しかし、アダプティブラーニングでは以下のメリットがあります。
- 個人の理解度に合わせて学習を進められる
- 誰一人取り残されることなく、カリキュラムを修了できる
企業側のメリットは以下の通りです。
メリット | 内容 |
---|---|
従業員の長所と短所を把握できる | 適切な人員配置が可能になる |
教育担当者の負担を軽減できる | 本来業務に専念できるようになる |
アダプティブラーニングのデメリット
アダプティブラーニングの導入には多くの課題が存在します。
- 導入には多額の費用が必要となります。インターネット環境や学習デバイス、サービス契約料など、様々な経費が発生するためです。特に、IT機器を新規で調達しなければならない企業は莫大な出費を強いられます。
- アダプティブラーニングには完全性が欠けています。AIが作成したカリキュラムが必ずしも個々人に適しているとは限らず、企業の業務に合ったサービスを選定する必要があります。
- アダプティブラーニングはコミュニケーション能力などのソーシャルスキルの教育には不向きです。ソーシャルスキルは実際の人間関係を通じて身につくものであり、社員教育ではアダプティブラーニングと対面式の教育を組み合わせる必要があります。
アダプティブラーニングの導入事例
金融機関や教育機関において、アダプティブラーニングシステムの導入により、従業員や生徒の個別の学習ニーズに合わせた効果的な知識習得が実現しました。
- 埼玉県信用金庫では、財務コースの自己学習を通じて、業務外の知見を深めたり、既存の知識を確認する機会となりました。
- また、個人の学習ペースの違いから、性格の理解にも役立ったとの声がありました。
- 一方、長崎南山中学校・高等学校では、学習記録の管理や試験の採点作業の効率化に加え、生徒の本音を把握しやすくなり、得意・不得意分野に応じた適切な指導が可能になったと評価されています。
このように、アダプティブラーニングは、従来の一斉学習とは異なる個別最適化された学びを実現し、組織や個人の成長を後押ししています。
アダプティブラーニングの主なサービス
アダプティブラーニングのソリューションは多岐にわたります。
企業ごとに異なる要件があるため、自社に合ったサービスを見極めることが重要です。
ここで、主要なアダプティブラーニングのサービスについて説明します。
- コースウェア型
- チュートリアル型
- シミュレーション型
- ゲーム型
サービス名 | 特徴 |
---|---|
コースウェア型 | 教材をコースとしてパッケージ化し、学習者の理解度に応じて教材を最適化 |
チュートリアル型 | ステップバイステップで学習を進められるよう、学習者に合わせて教材を調整 |
シミュレーション型 | 実際の業務をシミュレートし、学習者の行動に応じて教材を変更 |
ゲーム型 | ゲーム形式で学習を進め、ゲームの進行に合わせて教材を最適化 |
多言語対応のアダプティブラーニングサービス「Cerego」
Ceregoは米国発祥のパーソナライズド学習プラットフォームです。
- 多言語に対応しており、日本語での利用も可能です。
- 幅広い分野のコンテンツを作成できることがCeregoの強みとなっています。
AIの精度が高く、学習者の理解度を把握し、適切なコンテンツを提供します。
日本国内では、JR西日本の運輸関連従業員の教育にも活用されています。
金融特化型アダプティブラーニングサービス「CoreLearn」
凸版印刷が提供するアダプティブラーニングサービスであるCoreLearnは、以下の特徴を備えています。
- 独自のカリキュラム作成機能
- 金融分野に特化したプリセットコンテンツ
特に銀行などの金融機関で活用されており、学習に重点を置いた特徴があります。
- 正解不正解から弱点を分析し、オリジナル問題集を生成
- 反復学習を行うことで、知識の定着を図ることができます
アダプティブラーニングシステム「Classi」の機能と期待
アダプティブラーニングシステムであるClassiは、主に学校教育の現場で活用されています。
主要な機能としては、以下が挙げられます。
- 学習管理
- 欠席連絡
- 校内会議の内容確認
- 動画や問題コンテンツの配信
- テストの採点
- 生徒同士のコミュニケーション
教育におけるアダプティブラーニングに必要な機能が網羅されており、2020年10月時点で3,000校以上の学校で導入されています。
以下の効果が期待されています。
- 教員の業務負担軽減
- 教員・生徒・保護者間のコミュニケーション活性化
- 学習状況の可視化
- 適切な学習法の提案
まとめ
現代の企業では、従業員一人ひとりのスキルレベルに合わせた学習システムが不可欠となっています。
- アダプティブラーニングは、個人の空き時間を活用して自己啓発に取り組むことができる優れた手段です。
ただし、提供されるサービスの機能は企業によって異なるため、導入目的や業種、求められるスキルレベルなどを考慮して適切なシステムを選択する必要があります。
従業員教育は業務に押されがちですが、効率的な学習環境を整備することで、生産性の向上と人材育成の両立が期待できます。