シビックテックの実例と効果：テクノロジーで社会課題を解決する革新的アプローチ

コロナウイルスの流行に伴い、人々の日常生活が大きく変容したことで、シビックテック（CivicTech）という概念が注目を集めています。

シビックテックは、一般市民が中心となって社会課題の解決に取り組む活動や、そのための環境整備を指します。この新しい社会参加の形は、テクノロジーを活用しながら、より良い地域社会の実現を目指すものです。

シビックテックの活動は、以下のような幅広い分野に及んでいます：

• 行政サービスの改善
• 地域コミュニティの活性化

シビックテックとは？

シビックテック（CivicTech）は、市民（Civic）とテクノロジー（Technology）を組み合わせた新しい概念です。

この取り組みは、日常生活で市民が直面する様々な問題に対して、最新のテクノロジーを活用して解決策を見出すことを目指しています。

近年、この革新的なアプローチへの注目が高まっており、社会課題の解決に向けた新たな可能性を開いています。

シビックテックの基本的な考え方と、その社会的意義について、以下で詳しく説明していきます。

シビックテックの誕生：ガバメント2.0の提唱

シビックテックの起源はアメリカにあります。

アメリカ政府は長年にわたり、多大な時間と予算を投じて行政サービスを市民に提供してきました。

しかし、2000年代に入ると、市民のニーズが多様化し、それらすべてに対応することが難しくなってきました。

この状況を打開するため、オライリーメディア社の創設者ティム・オライリーが「ガバメント2.0」という概念を提唱しました。

これは、以下を目指すものです：

• 様々な社会課題に取り組み
• 革新的なサービスやビジネスモデルを生み出すこと

この「ガバメント2.0」の提唱が、シビックテック活動の始まりとなりました。

日本のシビックテック：震災から新型コロナ対策まで

日本におけるシビックテックの本格的な始まりは、2011年3月の東日本大震災時でした。
震災発生からわずか4時間後に「シンサイ・インフォ（sinsai.info）」が立ち上げられ、災害情報が公開されました。
これは技術者たちによる自発的な復興支援活動でした。
同年、継続的な復興支援を目的としたコミュニティ「Hack for Japan」も誕生しています。

2020年3月には、東京都が「新型コロナウイルス感染症対策サイト」を開設し、これがシビックテックの代表的な事例となりました。
一般社団法人コード・フォー・ジャパン（CfJ）が東京都から受託し、驚くべきことに1日半という短期間で公開にこぎつけました。
このサイトの特徴は、GitHubでソースコードを公開し、市民による改良やバグ修正を可能にしたことです。
その結果、リリース後には5000を超える意見が一般のエンジニアから寄せられ、サイトの品質が大幅に向上しました。
さらに、このオープンソース化されたコードは他の自治体のサイト開発にも活用され、広く波及効果をもたらしました。

シビックテックの5つの主要分野と特徴

シビックテックは、2013年にアメリカのナイト財団が発表した分類によると、5つの主要分野に分けられます。これらの分野は、

• 行政データの有効活用
• シェアリングエコノミーの促進
• クラウドファンディングの活用
• 専門家や地域との効果的なネットワーク構築
• 市民参加型コミュニティの形成

シビックテックの特徴は、これらの分野を柔軟に組み合わせることで、市民が直面する様々な課題に対して革新的な解決策やビジネスモデルを創出する点にあります。この approach により、テクノロジーを活用しながら、より効果的に社会問題に取り組むことが可能となっています。

シビックテックとガブテックの違いとは？

シビックテックと類似した取り組みとして、「ガブテック」が挙げられます。

ガブテックは、テクノロジーを活用して行政サービスの改善を目指す活動です。

両者は似ているように見えますが、実際にはそれぞれ異なる特徴と目的を持っています。

シビックテックとガブテックの違いを理解することは、これらの取り組みの本質を把握する上で重要です。

ガブテックとシビックテック：行政と市民のテクノロジー活用

ガブテックは、政府（Government）とテクノロジー（Technology）を組み合わせた造語で、行政と民間企業が協力してテクノロジーを活用したサービス創出を目指す取り組みを指します。
これに対し、シビックテックは市民が主体となって社会課題の解決を目指す活動です。市民が利用できるサービスを開発し、市民自身が問題解決に取り組める環境づくりを目的としています。

ガブテックの主な目的は、テクノロジーを活用して行政サービスを効率化し、サービスの質を向上させることです。行政機関と民間企業が協力してデジタル化を推進することで、より効果的で利用しやすい公共サービスの提供を目指しています。この取り組みにより、以下が期待されています：

• 行政手続きの簡素化
• データを活用した政策立案
• 様々な分野での改善

シビックテックが注目されている背景

コロナウイルスの感染拡大に伴い、リモートワークが急速に普及したことで、私たちの生活様式は大きな転換を迎えました。

この社会変化の中で、テクノロジーを活用して地域や都市の問題解決に取り組む「シビックテック」が新たな注目を集めています。

市民と行政、そして技術者が協力し合い、より良い社会づくりを目指す動きが広がっています。

シビックテックで社会課題に挑む

コロナウイルスの流行や自然災害の影響により、失業率の上昇や人々の孤立といった社会問題が深刻化しています。

これらの課題に効果的に対処するには、政府の取り組みだけでは不十分で、市民一人ひとりが積極的に行動を起こすことが重要です。

このような状況下で、市民参加型のテクノロジーを活用したシビックテックの役割が注目されています。

シビックテックは、以下の点で期待が高まっています：

• 市民が主体となって社会課題の解決に取り組むための環境を整備
• 緊急時においても迅速かつ柔軟な対応を可能にする手段

デジタル庁とシビックテックの新展開

2021年9月のデジタル庁発足は、シビックテックの発展に大きな影響を与えています。

「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」という理念のもと、約600人の職員のうち約3分の1が民間出身という特徴的な組織構成を持っています。

デジタル庁では、シビックテックを推進する専門職が設置され、具体的な取り組みが進められています。例えば、

• 行政機関ごとに異なる「台帳データ」の標準化
• 民間でシビックテックを牽引する人材の育成
• そのための環境整備

などが挙げられます。

これらの施策により、今後シビックテックの普及と発展が期待されています。

Society5.0とシビックテックの融合

Society5.0は、デジタル技術と現実世界を高度に融合させ、経済成長と社会問題の解決を同時に実現しようとする国家戦略です。

この構想は、最新のテクノロジーを活用して社会課題に取り組むという点で、シビックテックの理念と共通点があります。

シビックテックは、市民の技術力を活かして公共サービスの改善や社会問題の解決を図る活動であり、Society5.0の目標達成に寄与する可能性があるため、近年注目を集めています。

実際の取り組み事例

シビックテックを活用している自治体の具体的な事例について、これから詳しく見ていきましょう。

各地域で行われている革新的な取り組みを通じて、テクノロジーがどのように地域課題の解決に貢献しているかを探ります。

大津市のオープンデータ活用で観光振興

滋賀県大津市は、大津商工会議所と協力して「びわ湖大花火大会」の情報をオープンデータとして公開しています。

この取り組みでは、以下のデータを提供し、地元のクリエイターによる活用を促進しています：

• 大津市内の観光スポット
• 寺社
• 観光案内所

さらに、Code for Shiga/Biwakoという有志の団体が結成されました。
この団体は、ワークショップを通じて：

• コミュニティを形成し
• 地域に貢献する革新的なアイデアを生み出すこと

を目指しています。

これらの活動は、地域の観光振興とデジタル化を推進する重要な取り組みとなっています。

さっぽろ保育園マップ誕生

札幌市において、「さっぽろ保育園マップ」が新たに開発されました。
このマップは、Code for Sapporo パパママまっぷチームによって制作され、子育て世帯の負担軽減と子どもたちへの良質な保育環境提供を目的としています。

このマップの特徴は、札幌市内の保育施設の認可状況を視覚的に把握できる点です。
各保育園のアイコンをクリックすると、開園時間などの詳細情報が表示されます。
さらに、検索機能を活用することで、特定の条件に合った保育所を効率的に見つけることができます。

このツールは、保育園選びに悩む親御さんにとって、有用な情報源となることが期待されています。

ちばレポ：ICTで市民協働の街づくり

千葉市が提供する「ちばレポ」アプリは、ICTを活用して市民の協力による街の問題解決を促進します。

このアプリでは、地域の課題を共有し、協力して解決に取り組むことができます。

また、以下の工夫が施されています：

• 問題解決への貢献
• レポート投稿者への感謝表現
• ユーザーが積極的に参加したくなる仕組み

これにより、市民が主体的に地域改善に関わる環境が整備されています。

ゴミ収集日を簡単確認：「5374.jp」アプリ

金沢市を拠点とするCode for Kanazawaが開発した「5374.jp」は、地域のゴミ収集スケジュールを簡単に確認できる便利なアプリケーションです。

当初は金沢市限定でしたが、現在では石川県内の多くの地域で利用可能になっています。

このアプリは、ユーザーが住んでいる地域のゴミ収集日や種類を効率的に把握できるよう設計されており、地域住民の日常生活をサポートする役割を果たしています。

消火栓マップアプリで消防活動を効率化

会津若松市において、地域の消防団員の要望を受けて「会津若松市消火栓マップ」というアプリケーションが作成されました。

このアプリにより、消防団員が緊急出動時に素早く消火栓の場所を特定できるようになり、火災への対応時間が短縮されました。

この革新的な取り組みは、地域のIT技術者グループによって実現されました。

宜野湾市で市民主導の地域課題解決講座開催

沖縄県宜野湾市では、地域の課題に取り組むための市民向け講座が開催されました。

この講座の講師を務めたのは、「Code for Kanazawa」の設立メンバーの一人で、アイパブリッシング株式会社代表取締役の福島健一郎氏です。

講座の締めくくりとなる最終発表会では、6つのチームが参加し、様々な分野における地域課題の解決策が提案されました。

• 医療
• 防犯
• 地域コミュニティ
• 介護
• 健康
• 子育て

この取り組みは、市民が主体となって地域の問題に取り組む新しい形の社会参加として注目されています。

東京都コロナ対策サイトのオープンソース化と波及効果

東京都が新型コロナウイルス感染症対策サイトのソースコードをオープンソースとして公開したことは、先述の通りです。

この取り組みは大きな反響を呼び、全国各地の自治体や組織がこのコードを基に独自の対策サイトを構築するという波及効果をもたらしました。

このように、行政のオープンソース化の取り組みが広く活用され、社会全体で情報共有や対策立案に貢献した事例として注目されています。

シビックテックの今後

シビックテックは、コロナ禍を契機に注目を集めましたが、その重要性はパンデミック後も継続すると予想されています。

デジタル技術を活用して市民生活の課題解決を図るこの取り組みは、社会のニーズに応える形で今後さらに発展していくでしょう。

コロナ後のシビックテック：課題と展望

シビックテックの重要性は、コロナ後の社会でさらに増すと予想されます。

パンデミックによって、行政の対応能力を超える課題が明確になりました。これらの問題に対処するには、シビックテックを活用した革新的なソリューションの開発が不可欠です。

ただし、シビックテックの普及に伴い、高齢者のデジタルリテラシーの問題が浮上しています。テクノロジーを活用したサービスは、お年寄りにとってアクセスが難しい場合があります。

したがって、シビックテックの推進と同時に、包括的なアプローチが求められます。

• 高齢者にも使いやすいインターフェースの設計
• デジタル教育の提供

シビックテックの進展と社会課題解決への可能性

シビックテックのアプリケーション開発は、自治体のオープンデータ化と市民とITの融合により、今後さらに進展すると予想されます。台湾の事例は、この分野の可能性を示す好例です。マスク不足の懸念に対し、政府が迅速に在庫データをAPI形式で公開し、市民開発者が短期間で多数のアプリを作成しました。

この成功の背景には、g0v（ガブゼロ）というシビックテックコミュニティの存在があります。彼らは既にマスクの在庫可視化サイトを運営しており、政府との日常的な連携が迅速な対応を可能にしました。

注目すべきは、政府だけでなく民間のイニシアチブも活発な点です。日本でも「5374」アプリの成功や、品川区でのワークショップ発のアプリ継続支援など、シビックテックを身近にする取り組みが広がっています。これらの動きは、市民参加型のテクノロジー活用が社会課題解決に貢献する可能性を示しています。

シビックテックは今後も拡大が予想される

本記事では、シビックテックの概要や注目される背景、実際の取り組み事例などを詳しく解説しました。

現代社会は、新型コロナウイルスの影響や少子高齢化など、多くの課題に直面しています。これらの社会問題を解決するためには、市民一人一人が積極的に関与し、解決能力を高めていくことが重要です。

そのため、市民の課題解決をサポートするシビックテックの重要性は今後さらに増していくと予想されます。

シビックテックは、技術を活用して市民と行政をつなぎ、より良い社会づくりに貢献する取り組みとして、今後も大きな注目を集めていくでしょう。