日本国民にとって最も身近な租税の一つが消費税です。
しかし、消費者として支払う消費税は理解していても、事業者として徴収・納付する際には多くの疑問点が浮かび上がるかもしれません。
消費税の徴収・納付制度は極めて複雑で、納税義務者となることへの不安を抱える人も少なくありません。
事業の規模が一定以上になった際に検討すべき課題が消費税の納付です。
赤字であっても課税事業者であれば消費税を支払わなければならない場合もあります。
納税義務の有無は、個人事業主・法人を問わず、課税売上高と呼ばれる金額によって判断されます。
納税義務者と認定されれば、消費税を納める必要があります。
予想以上の金額となり、戸惑う方もいらっしゃるでしょう。
そもそも課税売上高の算出方法が複雑で、課税事業者となる基準が分からないという声も少なくありません。
そこで本稿では、課税売上高について詳しく解説するとともに、消費税の概要にも触れていきます。
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課税売上高とは?
消費税の課税対象となる取引から生じる収入の金額を課税売上高と呼びます。
ほとんどの事業活動に関連する売上げが課税売上高に該当します。
- 本業の売上に加え、事務所用建物の譲渡収入など本業以外の収益も、事業活動に関連する限り課税売上高に含まれます。
- 原稿料、講演料、印税、オンライン副業の収入なども、課税売上高に算入されます。
消費税がかからない取引(非課税取引・不課税取引)の例
以下のような取引は非課税の対象となります。
- 国外で行われる取引
- 寄付や単なる贈与行為
- 出資に対する配当金の支払い
1. 土地の売買や賃貸借 |
2. 住宅の賃貸 |
3. 有価証券の譲渡 |
4. 利息の支払い |
5. 保険料の支払い |
6. 商品券の販売 |
7. 戸籍謄本の発行に係る手数料 |
8. 社会保険料の支払い |
9. 介護保険サービスの提供 |
10. 出産に係る費用の支払い |
11. 埋葬に係る費用の支払い |
12. 一定の学費の支払い |
なお、非課税取引とは「国内の事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等」及び「輸入取引」以外の取引を指します。一方、課税対象から除外される取引や、社会政策上の理由から消費税が課されない取引が非課税取引に該当します。
課税売上高の計算方法
税金が課される売上高は、非課税取引や免税取引に該当しない多くの課税対象取引から生じる収入を合算して算出されます。
その計算式は次のとおりです。
課税売上高 | = | 総売上高 | - | 免税取引・非課税取引・非課税取引に係る売上高 |
消費税の概要
消費税は商品やサービスの取引に対して、広範囲にわたり公平に賦課される税金です。事業者に直接の負担を求めるのではなく、流通の各段階で順次徴収されますが、最終的には消費者が全額を負担することになります。
実際の納税は生産、流通、小売の各段階で事業者が行います。
課税対象の物品が生産から流通、小売りの段階を経る場合、取引の各段階で消費税が課されるため、そのままでは重複課税が発生してしまいます。
しかし実際には、納税義務者が
- 徴収した消費税額から支払った消費税額を差し引いた額
を納付することで、重複課税が回避されています。
消費税の計算方法
事業者が納付すべき消費税額は、課税対象となる売上げに係る消費税額から、課税対象となる仕入れに係る消費税額を控除した金額となります。
課税対象の仕入れとは、
- 商品の購入
- 設備投資
- 原材料や事務用品の調達
- 運送サービスの利用など、事業活動に必要な支出を指します。
ただし、
- 土地の取得
- 賃借料
- 従業員への給与・賃金
などは課税対象外となるため、控除の対象にはなりません。
つまり、売上げに係る消費税額から仕入れに係る消費税額を差し引けば、納付すべき消費税額が算出できるということです。
具体例を示しましょう。
消費税率が10%の場合、仕入先から10万円(税抜き)の商品を購入すると、消費税1万円が加算され、合計11万円を支払います。
その後、この商品を15万円(税抜き)で販売すると、消費税1万5000円を加えた16万5000円を売上げとして計上します。
この場合、納付すべき消費税額は、
売上げに係る消費税額15,000円 | から | 仕入れに係る消費税額10,000円 | を控除した | 5,000円 |
となります。
ただし、帳簿と請求書等の両方で課税対象の仕入れを適切に記録していない場合、仕入れに係る消費税額は控除できませんので注意が必要です。
課税事業者となる条件は?
個人事業主の場合は暦年、法人の場合は事業年度における課税期間において、基準期間または特定期間の売上高が消費税を除いて1,000万円を超えると、消費税の納税義務が発生します。
この際、売上高は消費税を控除した金額で算出する必要があります。
つまり、基準期間または特定期間の課税売上高(税抜き)が1,000万円を上回れば、課税事業者となるということです。
課税事業者でない場合、消費税関連の事務処理は不要ですが、仕入れに係る消費税の控除が認められないため、還付を受けられないデメリットがあります。
一方、
- 輸出業者など還付を受けている事業者が還付を継続するには、課税事業者となる必要があり、特に基準期間または特定期間の課税売上高が1,000万円以下の場合は注意が必要です。
- また、大規模な設備投資を予定している場合、購入時の消費税負担が大きくなるため、課税売上高が1,000万円以下でも課税事業者となった方が有利な場合があります。
基準期間または特定期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、任意で課税事業者となることは可能です。
任意課税を選択する場合は、課税期間開始日の前日までに、所轄税務署へ「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。
基準期間と特定期間について
現在の期間
消費税の課税基準期間は、個人事業者の場合、2年前の期間を指します。
例えば、2022年の売上高が1,000万円を超えると、2024年から課税対象となります。
2023年の売上が基準以下であっても、2024年は消費税の納付が必要になるため、資金計画を立てる必要があります。
課税期間の延長を望む場合、法人化が一つの選択肢となります。
個人事業と法人は別の事業体とみなされ、消費税の納税義務も別個に判断されるためです。
個人事業から法人化すれば、当初は非課税事業者として始められます。
しかし、法人化には
- 経理・税務面での負担増加や
- 赤字時の納税義務発生
- 従業員の社会保険料負担
など、デメリットも存在します。
法人化の是非は、メリット・デメリットを総合的に勘案する必要があります。
特定期間
一定の期間における収入額に基づき、個人事業主が課税事業者に該当するかどうかが判断されます。この期間は、前年の1月1日から6月30日までとなっています。
具体的には、この期間の課税対象売上高が1,000万円を超えた場合、翌年から課税事業者と見なされます。ただし、
- 課税売上高ではなく、賃金などの支払総額を基準にすることも可能です。
一方、個人事業を7月1日から12月31日の間に開業した場合、この期間は適用されません。
課税売上高を用いて行う計算・判定
納税義務
先に説明した通り、納税義務者を特定するための指標として課税売上高が利用されます。
- 一定期間における課税売上高が1,000万円を上回れば、その事業者は課税対象となります。
課税売上高は、消費税の納付義務の有無を判断する基準値として機能します。
課税対象外の事業者による誤った納税を防ぐ上でも、課税売上高という概念は重要な意味を持ちます。
仕入税額控除
企業が販売活動から得た収益が仕入れコストを下回る場合、支払った消費税の一部が還付される可能性があります。
具体的には、
- 仕入れ時に支払った消費税額が売上時に受け取った消費税額を上回れば、その超過分が還付の対象となります。
特に輸出業界では、
- 国内で調達した商品を海外の取引先に販売する際、消費税を請求することができないため、課税対象売上高を算出することで、還付額の見込みを立てることができます。
最終的に超過分が還付されるのです。
簡易課税制度
消費税の計算を簡略化できる制度が簡易課税制度です。課税売上高に一定の「みなし仕入率」を乗じた金額を、預かった消費税額から控除して納付税額を算出できます。
個人事業主や小規模事業者にとって、消費税計算は実務上の負担が大きい場合があります。そこで、簡易課税制度を利用することで、計算負担を軽減できます。
ただし、
- 「基準期間の課税売上高が5,000万円以下」であり
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。
このように、簡易課税制度の適用可否を判断するために課税売上高が利用されます。
簡易課税制度は適用後2年間継続しなければなりません。大規模な設備投資等を行う場合、実際の購入にかかる消費税額がみなし仕入率で計算した消費税額を上回ることがあり、原則課税の方が有利になる可能性があります。そのため、大規模な設備投資を計画している場合は、簡易課税制度の適用を決定する前に、どちらが有利かを慎重に検討することが賢明です。
簡易課税制度を適用する際の事業区分およびみなし仕入率は以下の通りです。
事業区分 | みなし仕入率 |
---|---|
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) | 80% |
第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) | 70% |
第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) | 60% |
第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
消費税の申告・納付方法
申告方法
税務署に直接足を運び申告書を提出するか、郵便などを利用して居住地の税務署に申告書を発送するという選択肢があります。
納付方法
納税の方法は複数あり、翌年3月15日までに振替納税の申請を行う必要があります。
申請書に所定事項を記入し、所轄の税務署または金融機関に提出します。
また、自宅からインターネットを活用して
- e-Taxで支払うこと
もできます。
- クレジットカードによる支払い
も可能で、専用サイトから手続きができます。
- コンビニ決済
も選択肢の一つで、確定申告作成コーナーでQRコードを発行し、店頭で納付することができます。
最後に、
- 金融機関や税務署の窓口で現金で納める
こともできます。
課税事業者が提出すべき書類
1,000万円を上回る課税売上高を計上した基準期間においては、「消費課税事業者届出書(基準期間用)」の提出が義務付けられています。
特定期間の課税売上高等が1,000万円を超過した場合、以下が必要となります。
- 「消費課税事業者届出書(特定期間用)」を提出しなければなりません。
この届出書の提出により、翌年度から消費税課税事業者としての地位が与えられることになります。
まとめ
税金の計算に先立ち、納税義務の有無を課税売上高に基づいて判断することが説明されました。税理士に一任するのであれば詳しい知識は不要かもしれませんが、納税義務の定義や簡易課税の適用可否はキャッシュフローに大きな影響を及ぼすため、自身で把握しておく価値があります。
消費税の検討では「課税売上高」という用語が頻出するので、この機会にしっかりと理解を深めましょう。
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本記事が皆様のお役に立てば幸いです。