インクルーシブデザインの意味と原則:多様性に寄り添うデザインを学び、デザイナー転職に活かす方法

技術革新によって私たちの生活は大きく変化し、多くの便利な製品やサービスが生まれています。

しかし、その「便利さ」は必ずしもすべての人にとって同じではありません。

そこで注目されているのが「インクルーシブデザイン」という考え方です。

これは、多様な人々のニーズや能力を考慮し、できるだけ多くの人にとって使いやすく、アクセスしやすいデザインを目指すものです。

インクルーシブデザインの理念や特徴、そして実際の適用例について、幅広い視点から探ってみましょう。

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インクルーシブデザインとは?

インクルーシブデザインとは?

インクルーシブデザインの革新性

インクルーシブデザインは、従来のサービス開発や商品設計において見過ごされがちだった人々の視点を積極的に取り入れる革新的なアプローチです。

この手法は、多様な背景や能力を持つ人々を設計プロセスに巻き込み、より包括的な製品やサービスを生み出すことを目指しています

「インクルーシブ」という言葉は、「含める」という意味を持ち、誰もが利用できる環境づくりを重視する考え方を表しています。

左利き対応の包丁:インクルーシブデザインの実例

包丁の刃の向きは、従来から右利きの人が使いやすいように設計されていました。
そのため、多くの左利きの人が「切りにくい」と感じていました。
以前は左利きの人を右利きに矯正することが一般的でしたが、近年では左利きの人がそのまま生活することが普通になってきました。
その結果、左利きの人からの使いづらさの声が増えてきたのです。

現在では、多くの包丁メーカーが右利きと左利きの両方に対応した刃の向きの製品を提供しています。
これは、誰もが使いやすいことを目指す「インクルーシブデザイン」の一例といえるでしょう。
便利さや使いやすさは誰もが求めるものですが、これまではそれを享受できない人々がいました。

インクルーシブデザインは、このような状況をデザインの力で改善し、より多くの人々にとって使いやすい製品やサービスを生み出すアプローチです。
このような考え方が広まることで、社会全体がより良いものになっていくことが期待されます。

インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違い

インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違い

インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違い

インクルーシブデザインと類似しているが異なる概念として「ユニバーサルデザイン」が挙げられます。

ユニバーサルデザインは、設計の初期段階から多様な人々の利用を考慮に入れたアプローチです。

この考え方は、以下の分野において特に重要視されています:

  • 建築や公共空間のデザイン
  • 国際的に展開される製品やサービスの開発

両者は包括的な設計を目指す点で共通していますが、アプローチの仕方に違いがあります。

インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違い

インクルーシブデザインとユニバーサルデザインには重要な違いがあります。

ユニバーサルデザインは、最初から多くの人が利用できることを目指して作られます。一方、インクルーシブデザインは、一人でも使えない人がいれば、その人も使えるように改善を重ねていく進化型のデザインです。常に改善を続けることで、より多くのユーザーに対応できるようになります。

また、対象とする規模も異なります。

  • ユニバーサルデザインは主に「大衆」向けのデザインと言えます。
  • これに対し、インクルーシブデザインは包括と排他の境界をなくすことを目指すため、「大衆」向けの場合もあれば「ニッチ」な対象に向けられる場合もあります。

このように、両者はアプローチや対象範囲に違いがあります。

排他的なエクスクルーシブデザインとは?

排他的なエクスクルーシブデザインとは?

インクルーシブとエクスクルーシブ:デザインの両極

インクルーシブデザインと対照的な概念として、エクスクルーシブ(排他的)デザインがあります。これは「大多数のターゲットを除外する」デザイン手法で、会員制の飲食店などがその例です。排他的であることは必ずしも否定的なものではありません。特定のニーズを持つユーザーと、それに応える企業が存在すれば、市場として成立します。

しかし、そのサービスへの需要が大きく増加した場合、インクルーシブデザインへの移行を検討する時期かもしれません。重要なのは、必要とする人々に適切なサービスや製品が届くことです。この観点から見れば、インクルーシブであれエクスクルーシブであれ、ユーザーのニーズに応えるデザインは価値があると言えるでしょう。

インクルーシブデザインと排他性の理解

インクルーシブデザインを実現するためには、排他的になりうる要素を理解することが重要です。

主に以下の6つの観点から排他性が生じる可能性があります:

  • 身体
  • 感覚
  • 知覚
  • デジタル化
  • 感情
  • 経済

日常生活には、健常者が気づきにくい多くの排他的要素が存在します。例えば、視覚障害のある人にとっては、一般的な道路でも移動に困難を伴う場合があります。点字ブロックや音声信号機がないと、安全に歩行したり横断歩道を渡ったりすることが難しくなります。

このように、私たちの周りには多くの「排他的ポイント」が潜んでいます。インクルーシブデザインの第一歩は、これらの排他的要素の存在を認識し、意識することから始まります。様々な人々のニーズや障壁を理解することで、より包括的な設計が可能になります。

日常に寄り添うインクルーシブデザイン

日常に寄り添うインクルーシブデザイン

わたしたちの身の回りには、多くのインクルーシブデザインが存在しています。

このデザイン手法は、特別なものではなく、むしろ日常的に私たちの生活を支えています

具体的な例を挙げながら、インクルーシブデザインが私たちの生活にいかに溶け込んでいるかを説明していきます。

このアプローチが、実は身近で自然なものであることを理解していただければ幸いです。

ライターの進化:片手操作の革新

ライターは現代では広く普及していますが、その歴史は意外と新しいものです。初期のライターは操作が難しく、両手を使わないと火をつけられないほど不便なものでした。そのため、多くの人々は長らくマッチを使い続けていました。

しかし、戦争で片腕を失った兵士たちのニーズがきっかけとなり、片手で簡単に操作できるライターが開発されました。この革新的な設計により、ライターの使いやすさが飛躍的に向上しました。

現在私たちが日常的に使用している使いやすいライターは、このような歴史的背景と技術革新の結果生まれたものです。多くの人々の努力と創意工夫により、ライターは今や誰もが簡単に使える便利な道具となりました。

ストロー誕生の意外な背景

飲食店で飲み物を注文すると、通常ストローが付いてきます。

このストローの誕生には、実はインクルーシブデザインの考え方が関わっています。

ストローの発明者は、身体の動きに制限がある人でした。彼にとって、

  • 手でコップを持つこと
  • 口で直接飲むこと

も困難で、一人で飲み物を飲むのは大変な作業でした。

この課題を解決するために、手を使わずに吸い込むだけで飲めるストローが考案されました。

このように、特定のニーズから生まれた発明が、結果的に多くの人々の生活を便利にしている例と言えるでしょう。

セブンATM:視覚障害者にも使いやすい革新的設計

ATMは視覚障害のある方にとって、使用が困難なサービスの一つでした。

数字入力が画面上のボタンで行われるため、どの位置にどの数字があるかを把握するのが難しかったのです。

この問題に対する優れた解決策として、セブンATMが挙げられます。

このATMは音声ガイダンスとテンキー式のボタンを採用しており、画面を見なくても操作が可能になっています。

このデザインは、以下の方法を通じて開発されました:

  • ATM利用者へのアンケート調査
  • 他の金融機関のATM分析

セブンATMは、多様なユーザーのニーズに配慮したインクルーシブデザインの成功例として広く認知されています。

車椅子対応スカート:インクルーシブなファッションの進化

私たちにとって日常的な洋服ですが、障がいのある方々にとっては様々な課題があります。
特に車椅子を使用している女性にとって、適切なスカートを見つけることは難しい問題です。

  • 風でめくれる
  • 着脱が困難
  • 座ると丈が短くなる

など、多くの理由があります。

このような状況を改善するため、車椅子ユーザーと健常者の両方が快適に着用できるスカートが開発されました。
これは障がいのある方々の意見を取り入れつつ、特定のグループに限定せず、誰もが使いやすいインクルーシブなデザインを目指しています。

このような取り組みは、ファッションを通じて社会のバリアフリー化を促進し、すべての人々が自由に自己表現できる環境づくりに貢献しています。

インクルーシブデザインのアプローチ方法

インクルーシブデザインのアプローチ方法

インクルーシブデザイン:多様性を活かす創造プロセス

インクルーシブデザインの核心は、デザインプロセスの初期段階から多様な人々を巻き込むことです。これにより、幅広いユーザーのニーズに応えるサービスや製品を創出できます。従来のデザイン対象から外れがちだった高齢者、子ども、障がい者などを「リードユーザー」として積極的に参加させます。

このアプローチでは、多様なユーザーとの直接的な交流を通じて、ワークショップやグループディスカッションを行います。こうした協働作業により、デザイナーやユーザーが単独では気づきにくい課題や視点を発見することができます。これらの洞察を活用し、より包括的で革新的なデザイン提案につなげていくのです。

インクルーシブデザインの注意点

インクルーシブデザインの注意点

インクルーシブデザインを実践する際の重要な注意点があります。
それは、リードユーザーの意見をそのまま採用するのではなく、慎重に検討することです。
開発するサービスや製品は、リードユーザーだけでなく、より広い利用者層を対象としているためです。

リードユーザーからの意見は、自分たちが気づかなかった課題の発見や新たな視点の獲得に役立ちます。
しかし、これらの意見をどのように製品やサービスに反映させるかは、デザイナーの重要な役割となります。

インクルーシブデザインのプロセスで得られた意見は、開発中のサービスや製品の目的に合わせて適切に調整し、他の要素とのバランスを考慮しながら反映させることが大切です。
このアプローチにより、より多くのユーザーにとって価値のある製品やサービスを創出することができます

インクルーシブデザインを仕事に活かすには

インクルーシブデザインを仕事に活かすには

インクルーシブデザインは、特定のデザイナー職種を指すものではなく、包括的なデザインプロセスを意味します。

これは、従来のデザイン対象から外れがちだった人々も中心に据えるアプローチです。

デザイナーがこの概念を理解し、知識や経験を積むことは、より効果的な提案につながります。

デザイン業界では、既存の手法に固執せず、新たな分野を常に探求することが重要です。

このような姿勢を持つことで、多様な人々の共感を得られるデザインが可能となり、より包括的で革新的な成果を生み出すことができます。

まとめ

まとめ

ストローやライターなど、日常生活で目にする多くの製品にインクルーシブデザインの考え方が取り入れられています。これらは社会のニーズに応えるものですが、すべての人々を完全に包括することは難しい課題です。しかし、インクルーシブな視点でデザインを行うことで、より多くの人々のニーズに対応することができます。

従来のデザインが常に最適とは限りません。社会は常により良いものを求めており、デザインもそれに応じて進化していく必要があります。デザイナーとしてのキャリアにおいて、インクルーシブデザインの専門知識が必須というわけではありませんが、どのような製品やサービスに携わる場合でも、継続的な改善と課題解決の姿勢が重要です

インクルーシブデザインの視点を持ち、多様なユーザーのニーズを理解し、それに応えられる能力は、今後ますます重要になるでしょう。この考え方を取り入れることで、より多くの人々に価値を提供できるデザインが生まれ、社会全体にポジティブな影響をもたらすことができます。