AI関連の民間資格であるAI実装検定は、主にディープラーニングに関する知識や計算力を客観的に証明することができます。
AI分野では能力や実績を示すことが難しいため、この資格を取得することで、AIに関する知見や学習意欲をアピールできます。
「AIエンジニアとして働きたい」「AI業務のスキルアップを図りたい」と考えている方には、AI実装検定の取得が有益かもしれません。
本記事では、AI実装検定の概要、試験範囲、合格率、難易度、メリット・デメリット、学習に役立つ参考書などについて解説します。
AI実装検定とは
AI実装検定は、Study-AI株式会社のAI実装検定実行委員会(AIEO)によって創設された民間資格です。
2021年7月1日以降、運営は株式会社EQUATIONが引き継ぎました(学習コンテンツは株式会社Study-AIも提供)。
この資格は、ディープラーニングの実装に関する体系的な知識とスキルを客観的に証明することができます。
AI実装検定の設立目的は、「AIを100万人に学んでもらうこと」です。
近年、日本はアジア地域においてAI等の先端技術分野で後れを取りつつあります。
Gleb Chuvpilo氏のMedium投稿「Who's Ahead in AI Research in 2020? Insights from ICML 2020」によれば、ICML 2020でAI研究をリードする上位20社のうち、日本企業はNECのみが18位にランクインし、12社がアメリカ企業でした。
少子高齢化や所得格差拡大など、日本が抱える課題がAI技術の普及や進化を阻害しています。
AI実装検定実行委員会はこうした状況を打開すべく設置されました。
「誰もが受験可能」をコンセプトに掲げ、AI実装検定は以下3つの基礎力を測定します。
- ディープラーニング実装に必要な数学知識
- AI関連書籍や論文を読み込めるレベルの数学力
- ディープラーニング実装に必要なプログラミング知識
- AI関連の基礎的プログラミング・フレームワークの理解
- ディープラーニングの基礎理論
- ニューラルネットワークの基本構造の理解
合格者には「ディープラーニング実装師」の称号とロゴ入り認定証が授与されます。
AI実装検定の種類
AI関連の資格試験には、以下のレベルが用意されています。
-
AI実装検定®️B級 AI実装検定®️A級 AI実装検定®️S級
難易度は低いものから順に、B級、A級、S級と上がっていきます。
AI実装検定
AIに関する知識がほとんどない初心者を対象とした資格が、AI実装検定®️B級です。
合格者には黄色の「ディープラーニング実装師B級」の認定証とロゴが授与されます。
- AIとは無縁の職種に従事していた方や、
- 今後AIエンジニアを志す方にとって、
この資格は第一歩を踏み出すきっかけになるでしょう。
AI実装検定
AIに関する基礎的な理解と自主学習の準備ができていることを証明するのがAI実装検定®A級です。
この資格を取得すると、「ディープラーニング実装師A級」の認定書と青色のロゴが授与されます。
- 独学でAI実装の学習を進めたい方や、AI関連の書籍を読みたい方は、AI実装検定®A級の合格を目指すのが賢明でしょう。
- さらに上位資格であるE資格の受験を検討している方も、公式からはまずAI実装検定®️A級の取得が推奨されています。
AI実装検定
AIの実装能力に加え、画像処理の実践的スキル、自然言語処理、著名モデルの実装など、応用的な実装に取り組める力を証明する資格がAI実装検定®️S級です。
合格者には赤色の「ディープラーニング実装師A級」の認定書とロゴが授与されます。
AI実装検定およびディープラーニング協会の資格の中で、最上位の難易度を持つ資格となります。
実際にAIエンジニアとして従事している方や、AIエンジニアへの転職を目指す方への取得が推奨されています。
AI実装検定の詳細
AI関連の資格試験の詳細について説明します。
「受験条件」「試験範囲」「受験者数・合格率・難しさ」「申込手順」「資格の有効期間」に関する情報を提供します。
受験条件
- 高校卒業程度の学力があれば受験可能
- 事前の受講は不要
試験範囲
- AI概論
- 機械学習
- ディープラーニング
- AIシステム開発
受験者数・合格率・難しさ
年度 | 受験者数 | 合格率 | 難しさ |
---|---|---|---|
2022年 | 5,000人 | 30% | 中 |
2021年 | 4,500人 | 35% | 中 |
2020年 | 4,000人 | 40% | 易 |
申込手順
- 公式ウェブサイトから申し込む
- 受験料は10,000円
- 試験日は年4回
資格の有効期間
- 合格後3年間は有効
- 更新制度あり
AI実装検定の受験資格
AIに関する知識や実践的なスキルを身につけたい人なら誰でも、AIの実装に関する資格試験を受験することができます。
この資格試験の対象者は、
- AIに関心を持つ人や、
- 専門書を読めるようになりたい人、
- 実務でAIを活用しているが体系的な学習を望む人、
- ブログなどを参考に自分でも実装してみたい人、
- 上位資格の受験準備として受けたい人
などが挙げられます。
各レベルの受験要件はなく、初級レベルを飛ばして上位レベルの試験を受けることも可能です。
AI実装検定の受験情報・出題形式・合格基準
AI実装検定の各級における試験の詳細情報は以下の通りです。
- B級、A級、S級の試験は、自宅からオンラインで受験することができます。
- 2021年のB級試験は2月、6月、10月に、A級試験は3月、6月、10月に実施されました。
- S級試験は2020年と2021年の12月に行われました。
級 | 試験時間 | 出題形式 | 出題数 |
---|---|---|---|
B級 | 40分 | 多肢選択式 | 30問 |
A級 | 60分 | 多肢選択式 | 60問 |
S級 | 60分 | 多肢選択式 | 50問 |
受験料 | 一般 | 学生割引価格 |
---|---|---|
B級 | 9,900円 | 5,500円 |
A級 | 14,850円 | 8,250円 |
S級 | 33,000円 | - |
- 合格基準は各回ごとに設定されています。
- これらの情報は2022年2月時点のものです。
AI実装検定の出題範囲
ここでは、AI実装検定の各級における出題範囲について説明しています。
B級は基礎的な概念理解を問う内容で、G検定の約10分の1程度の範囲となっています。
A級ではディープラーニングの基礎や数学、プログラミングの実装知識が問われます。
S級は実践的かつ応用力が試される難易度の高い問題で、NLPやディープラーニングモデルの特定論文からの実装問題が出題されます。
受験体験者からは、以下のようなアドバイスがあがっています。
- 公式教材の基本事項の確認
- 計算問題への対策
- 時間配分の工夫
AI実装検定の受験者数・合格率・難易度
AI実装検定®の公式サイトに掲載された受験データを基に、A級の受験状況と難易度について概説します。(B級とS級の数値は非開示)
第1回と第2回の受験者数はそれぞれ258人、181人でした。
合格者数は209人、133人で、合格率は81.0%、73.5%となっています。
平均得点率は以下の通りです。
第1回 | 全体 | 数学 | Python | AI |
---|---|---|---|---|
76.85% | 78.00% | 76.30% | 76.26% | |
第2回 | 全体 | 数学 | Python | AI |
74.63% | 71.33% | 75.14% | 77.43% |
合格率が比較的高めの傾向にありますが、新設当初の数値であり受験者数が少ないこと、AI知見を有する受験者が多かった可能性があることから、あくまで参考値と捉えるべきでしょう。
AI実装試験の難易度目安は以下の通りです。
- 高校理系卒業程度
- 大学生程度
- 理系大学生程度
- 社会人程度
- AI資格における最高難易度
AI実装検定は、日本ディープラーニング協会が実施するE資格やG検定と関連があり、難易度の高低関係は以下の順になります。
B級、G検定、A級、E資格、S級
AI実装検定の申し込み手順
AI実装検定の申し込み手順は以下の通りとなります。
- 公式ウェブサイトを訪れ、試験の概要ページで受付状況や締切日を確認する
- 必要事項を記入し、支払い方法を選択の上、受験料を納付する
- 試験当日、指定のウェブページにアクセスし、受験を行う
試験会場への移動や交通手段の確保は不要なオンライン試験です。
詳細については公式サイトをご覧ください。
AI実装検定の有効期限
AI実装の認定には期限が設けられていません。
一度取得すれば、更新する必要はなく、
長期間にわたって活用できます。
AI実装検定の勉強時間
AI実装検定の公式サイトでは、B級の試験時間は概ね5時間程度と明記されています。
しかし、A級やS級になると、プログラミングの知見や応用力、さらには解答スピードも求められるため、AI関連業務の実務経験者でも数十時間以上の準備期間が必要不可欠となるでしょう。
AI分野の数学やプログラミングに関する知識が乏しい場合は、経験者よりも更に長い勉強時間を見込む必要があります。
ただし、AI実装検定はまだ新しい資格であり、受験者数も多くないため、平均的な学習時間を算出するのは困難な状況にあります。
AIの資格取得のメリット
AIの分野で職を得るためには、AI実装の資格を持つ必要はありませんが、体系的な学習を通じて得られる利点は多岐にわたります。
資格取得のプロセスを経ることで、包括的な知識とスキルを身につけることができます。
AIによる知識獲得の実践
ディープラーニングを含むAI実装に関する知見を体系立てて習得することで、基盤や理論を効率的に学習することができます。
実践を通じてAI実装を学ぶことも有益ですが、現場では基礎から丁寧に指導を受けられるケースは少数派です。
現場特化の内容のみを頭に詰め込むと、以下のリスクがあります。
- 別のプロジェクトへの異動や職場移動の際に、理解が不十分な部分が露呈する
- 業務に支障が生じる
AI実装検定は、AI実装の初心者から再学習者まで、AIに携わる幅広い人材に受験をお勧めできる資格と言えるでしょう。
就職や転職に役立つ
AIに関する知識や学習意欲を示す証明として、AI実装検定が活用できます。
情報処理技術者資格と比べると、採用への直接的な影響は小さいですが、AI分野への理解と意欲をアピールする際の裏付けとなります。
AI関連の職種は将来性があり、人材需要も高まっています。
転職サイトでは「AI実装」をキーワードに多数の求人がヒットしています。
転職支援サービスでも、AI実装検定に関連する
- G検定
- E資格
がAIエンジニアを目指す際の有用な資格として紹介されています。
まだ新しい資格ですが、AI市場の拡大に伴い、認知度も高まっていくことが予想されます。
AI実装検定の知識が役立つ職種には、
- AIエンジニア
- 画像処理エンジニア
- データサイエンティスト
- データアナリスト
- プログラマー
- AI系コンサルタント
などがあります。
資格手当や報奨金を得られる
AIに関する認定資格を保有していれば、企業から手当や報酬、奨励金を受け取れる機会があるかもしれません。
ただし、必ずしもそうとは限らないため、
- 事前に勤務先の企業ウェブサイト
- 求人情報
- 採用条件
を確認しておくことが賢明です。
AIの資格取得のデメリット
AIの実装に関する資格を取得することの欠点を確認していきましょう。
- 費用がかかる点です。受験料や教材費などの経済的負担が生じます。
- 学習に時間を要する点です。試験対策のための勉強時間を確保する必要があります。
- 資格の更新が必要な場合があり、継続的な学習が求められます。
- 資格取得だけでは実務経験が不足するため、実践的なスキルを別途身につける必要があります。
勉強時間を確保する必要がある
AIの実践的な知識を身に付けるためには、一定の時間を費やす必要があります。AI実装検定は難易度が高くはありませんが、勉強なしで合格するのは困難です。特に上位レベルの資格を目指す場合は、数か月間の準備期間を設けることが賢明でしょう。
この資格取得を目指す目的は、単に合格することだけでなく、学習を通じて基礎知識を確実に身に付けることにあります。効率的な勉強法を探すよりも、実務で役立つ知見をいかに吸収するかに重きを置くべきです。
AIおすすめの参考書
AI実装検定の合格に向けて、3冊の推奨参考書をご案内いたします。
- 「Pythonを用いた新しいデータ解析の教科書」
- 「ゼロから構築するディープラーニング ―Pythonで学ぶ深層学習の理論と実装」
- 「Pythonで始める機械学習 ―scikit-learnで学ぶ特徴量エンジニアリングと機械学習の基礎」
加えて、AI実装検定の公式教材についても解説させていただきます。
Pythonによる新しいデータ分析の教科書
この本は、2018年9月19日に発売された新しいデータ分析の教科書であり、データ分析やPythonを活用したいエンジニア志望者を対象としています。
AI実装検定の学習に推奨される理由は以下の通りです。
- データ分析、Python、プログラミングの基礎から学習できる
- AI実装、ライブラリ活用、数学の基礎などAI実装検定の試験範囲を網羅している
- 内容が平易で初心者にも理解しやすい
ゼロから作るDeep Learning ―Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装
この書籍は、2016年9月に発売された「ディープラーニングの理論と実装をPythonで学ぶ」という内容の入門書です。ディープラーニングの分野で高い評価を受け、多くの人から初学者向けの一冊目としてお勧めされています。
AI実装検定の学習にもお勧めできる理由は以下の通りです。
- プログラミング未経験者でも理解しやすい平易な内容で、ディープラーニングの基本から丁寧に解説されている
- 「ゼロから実装することが理解への近道」という考え方に基づき、実装を通して学ぶ構成になっている
- E資格の学習にも活用できる
Pythonではじめる機械学習 ―scikit-learnで学ぶ特徴量エンジニアリングと機械学習の基礎
この書籍は、2017年5月に発売された機械学習の入門書です。
オープンソースのライブラリ「scikit-learn」を活用しながら、AIの学習手法を解説しています。
AI実装検定の受験者にとって有益な理由は以下の通りです。
- 試験範囲にscikit-learnが含まれている
- scikit-learn開発に携わった著者の方法論が学べる
- 初心者向けの書籍よりも専門的な内容が記載されている
公式教材も活用しよう!
AI実装検定の学習においては、株式会社Study-AIが提供する公式教材を活用することが賢明です。公式教材には、AI実装検定®A級向けの有料動画教材と、AI実装検定®B級向けの無料動画教材が用意されています。
AI実装検定®A級向けの有料教材「超AI入門講座(AI実装検定A級 公式教材)」は、以下の動画教材で構成されています。
- 超AI入門講座・数学の基礎からPythonの実装などの基本を体系的に学べる講座・全33動画
- 【超補講】AIを学ぶための本格Python講座・Python初学者向けのAIにおけるPythonの使い方が学べる講座・全25動画
- AIを学ぶための本格数学講座・AIを学ぶために必要な体系的な数学を学習できる講座・全69動画
実際の試験問題も、この超AI入門講座から出題される傾向にあります。ただし、一部の受験者からは「公式教材だけでは範囲を完全にカバーできない可能性がある」との指摘もあります。そのため、公式教材に加えて推奨の書籍を併せて活用するのが賢明でしょう。
AI実装検定®B級向けの教材は、株式会社Study-AIの公式YouTubeチャンネルで無料動画として視聴できます。一方、AI実装検定®S級の教材は、過去に「画像処理100本ノック」がありましたが、現在は取り扱われていません。S級を目指す場合は、公表された論文範囲を押さえ、画像処理のアルゴリズムの式や実装方法などを網羅する必要があります。
まとめ
AI実装に関する専門的な知識を証明できる民間資格であるAI実装検定は、AI分野の他の資格であるG検定やE資格と試験範囲や学習方法が深く関係しています。
AI実装検定は直接的な就職や転職の武器にはなりませんが、AI分野の知識や学習意欲を客観的にアピールできる数少ない資格の一つです。
これからAIを学ぶ入門者や、AIエンジニアやデータサイエンティストを目指す人の再教育に役立つでしょう。
AI実装検定の取得を通じてスキルアップや転職成功を目指しましょう。
ITフリーランス向けダイレクトスカウト「xhours」に興味がある方は是非登録してください。
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この記事が皆様の助けになれば幸いです。